わたしを取り戻す朝 2026年03月31日 12時15分 | 物語 わたしを取り戻す朝第8話 ただ、歩く土曜の朝。目覚ましより少し早く目が覚めた。迷いは、もう大きくはない。机の上の紙は、今日は見ない。鍵を手に取り、車に乗る。街路樹の道。二度目の景色は、初めてより静かだ。白線の内側に車を止める。深呼吸をひとつ。木の扉を引く。前と同じ空気。同じ光。「おはようございま.... 続きを読む>
わたしを取り戻す朝 2026年03月24日 12時15分 | 物語 わたしを取り戻す朝第7話 理由はいらない水曜の夜。特別なことは、何もなかった。残業もなく、叱られることもなく、褒められることもない。静かな一日。食器を洗いながら、ふと手を止める。あの空間を、思い出す。音が少なく、呼吸がそろう場所。歩くだけの時間。誰にも期待されない時間。ただ、自分の速度で動く時間.... 続きを読む>
わたしを取り戻す朝 2026年03月17日 12時15分 | 物語 わたしを取り戻す朝第6話 いつもの月曜月曜の朝は、少しだけ空気が重い。目覚ましより先に目が覚めた。机の中央に健康診断の紙。動かさないまま、そこにある。キッチンでトーストを焼く。いつも通りの朝。けれど、頭の片隅に木の扉がある。あの静かな空間。トレッドミルの一定のリズム。車で出勤する。信号待ち。ルー.... 続きを読む>
わたしを取り戻す朝 2026年03月09日 12時15分 | 物語 わたしを取り戻す朝第5話 見学だけ木の扉の前で、足が止まる。ガラスではなく、少し重みのある木の扉。取っ手に手をかける。ひやりとした感触。ゆっくり引く。中は、思っていたより落ち着いている。広すぎない空間。やわらかな光。近くにいたスタッフが、静かに会釈をする。「ご見学ですね」問いというより、確認に近.... 続きを読む>
わたしを取り戻す朝 2026年03月02日 12時15分 | 物語 わたしを取り戻す朝第4話 白線の内側エンジンをかける。土曜の朝は、道が静かだ。いつもの交差点をそのまま進む。遠回りではない。今日は、迷ってもいない。街路樹の道に入ると、胸の奥が少しだけ整う。木々の間からガラス張りの建物が見える。トレッドミルはもう動いている。早い時間なのに、人がいる。ハンドルを握.... 続きを読む>
わたしを取り戻す朝 2026年02月22日 12時15分 | 物語 わたしを取り戻す朝第3話 数字の行方土曜の朝。目覚ましを止めても、二度寝はできなかった。机の端に置いたままの白い封筒。指でなぞると、紙の角が少しだけ折れている。三日どころではなかったのだと、気づく。キッチンからコーヒーの香りがする。湯気の向こうで、私は封を切った。紙を開く音が、やけに大きく感じる.... 続きを読む>
わたしを取り戻す朝 2026年02月15日 12時15分 | 物語 わたしを取り戻す朝第2話 遠回りの続きあの日から、封筒はまだ開けていない。けれど、帰り道だけは変わった。信号をひとつ、左へ。ほんの数分の違いなのに、景色が少し静かになる。街路樹の道。あの建物の前を、また通る。木々の間から見える光。トレッドミルは今日も動いている。同じ時間なのか、同じ人なのか、わか.... 続きを読む>
わたしを取り戻す朝 2026年02月08日 12時15分 | 物語 わたしを取り戻す朝第1話 封筒の重さ健康診断の封筒は、どうしてあんなに目立つのだろう。机の端に三日間、置いたままにしている。急ぎの書類ではないのに、白さだけが目に残る。五十二歳。会社では「さすが」と言われ、家では「無理しないで」と言われる。どちらも間違っていない。けれど、どちらも少し遠い。朝は車.... 続きを読む>