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あとで第五話

休日の朝、洗濯機を回していると
母から電話がかかってきた。
「元気にしてる?」
いつものひと言から始まる電話は、
畑の野菜がよくできたことや、
ご近所さんが旅行へ行ったこと、
庭に植えた花が咲いたことへと話が移り、
気づけば三十分近く経っていた。

「今度、顔見せにおいで」
母は何気なくそう言った。
「うん、また休み見て行くわ」
口にした瞬間、自分でも
何度目の返事だろうと思った。

電話を切ったあとも、
母の声だけが部屋に残っているような気がして、
洗濯物を干す手が少し止まる。

昔は、母のほうが忙しかった。
朝早くから働き、家のことを済ませ、
それでも休みの日にはどこかへ連れて行ってくれた。
あのころは、母にもこんなふうに
「また今度」と言う相手がいたのだろうか。

昼過ぎ、買い物へ出かける途中で実家の前を
通ってみようかと思ったものの、
冷蔵庫に足りないものを思い出し、
そのままスーパーへ向かった。
急ぐ用事があったわけではない。
少し寄るだけでもよかった。
それでも車はいつもの道を走り、
いつもの駐車場へ入り、
いつもの買い物を済ませて家へ戻ってきた。

夕方、畳んだ洗濯物をしまいながら、
母の「顔見せにおいで」という声がふと浮かぶ。
会おうと思えば会える距離にいる。
それなのに、会わないまま過ぎていく日がある。
忙しいからではない。
時間がないからでもない。
理由にならない理由を並べながら、
今日も一日が終わっていく。

窓の外では、少し傾いた陽射しが
向かいの屋根を照らしていた。
明日にすればいいと思えることは、
たしかにたくさんある。
けれど、その明日が、
いつまで当たり前に続くのかは誰にもわからない。


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