あとで 第二話
あとで 第二話 旅の話
更衣室のロッカーを
閉めようとしたときだった。
「ちょっと見て」
声のするほうへ顔を向けると、
仕事を終えた仲間がスマートフォンを
手にして立っていた。
「先週、行ってきたんよ」
画面いっぱいに広がる青い海を囲んで、
「きれいやね」「どこなん?」と声が重なる。
「ずっと行きたいと思ってたんやけど、
なんやかんやで延びてね。
このままやったら、また来年になる気がして」
その人はそう言って笑った。
「主人が、『行けるうちに行っとこう』って言い出して。
珍しいこともあるもんやわ」
みんなが笑う。
その笑いにつられて笑いながらも、
その言葉だけは胸のどこかに残った。
行けるうちに。
帰り道、スーパーへ寄る。
牛乳と豆腐、それに特売になっていた
トマトをかごへ入れ、
献立を考えながら店の中を歩く。
毎日こんなふうに過ぎていく。
困ることはない。
急ぐこともない。
レジを済ませて外へ出ると、
夕方の風が昼間より少しだけやわらかくなっていた。
家では夫がソファに座り、
タブレットで野球を見ていた。
「今日な、旅行の話を聞いてて」
買ってきたものを冷蔵庫へしまいながら言うと、
「ええなあ」と短く返事が返ってきた。
「私らも、しばらく行ってへんな」
「そうやな」
それだけだった。
昔なら、「どこへ行きたい?」
なんて話になったかもしれない。
今は、お互いに黙っていても気まずくはない。
それが長く暮らしてきた夫婦というものなのだろう。
夕食を終え、洗い物を済ませて一息ついたころ、
スマートフォンが光った。
『五十代から始めたい健康習慣』
そんな通知が画面に並ぶ。
開こうとして、やめた。
今日は、それより気になっていることがあった。
旅行の写真ではない。
海でもない。
「行けるうちに行っとこう」
あの一言だった。
旅のことだけを言っていたとは、
どうしても思えなかった。
更衣室のロッカーを
閉めようとしたときだった。
「ちょっと見て」
声のするほうへ顔を向けると、
仕事を終えた仲間がスマートフォンを
手にして立っていた。
「先週、行ってきたんよ」
画面いっぱいに広がる青い海を囲んで、
「きれいやね」「どこなん?」と声が重なる。
「ずっと行きたいと思ってたんやけど、
なんやかんやで延びてね。
このままやったら、また来年になる気がして」
その人はそう言って笑った。
「主人が、『行けるうちに行っとこう』って言い出して。
珍しいこともあるもんやわ」
みんなが笑う。
その笑いにつられて笑いながらも、
その言葉だけは胸のどこかに残った。
行けるうちに。
帰り道、スーパーへ寄る。
牛乳と豆腐、それに特売になっていた
トマトをかごへ入れ、
献立を考えながら店の中を歩く。
毎日こんなふうに過ぎていく。
困ることはない。
急ぐこともない。
レジを済ませて外へ出ると、
夕方の風が昼間より少しだけやわらかくなっていた。
家では夫がソファに座り、
タブレットで野球を見ていた。
「今日な、旅行の話を聞いてて」
買ってきたものを冷蔵庫へしまいながら言うと、
「ええなあ」と短く返事が返ってきた。
「私らも、しばらく行ってへんな」
「そうやな」
それだけだった。
昔なら、「どこへ行きたい?」
なんて話になったかもしれない。
今は、お互いに黙っていても気まずくはない。
それが長く暮らしてきた夫婦というものなのだろう。
夕食を終え、洗い物を済ませて一息ついたころ、
スマートフォンが光った。
『五十代から始めたい健康習慣』
そんな通知が画面に並ぶ。
開こうとして、やめた。
今日は、それより気になっていることがあった。
旅行の写真ではない。
海でもない。
「行けるうちに行っとこう」
あの一言だった。
旅のことだけを言っていたとは、
どうしても思えなかった。
