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あとで

昼休みの休憩室は、
いつも同じようでいて、毎日少しずつ違う。

誰かが持ってきた
お菓子が机の上に置かれていたり、
テレビから流れるニュースが違ったり。

そんな小さな変化を除けば、
時間は穏やかに流れている。

窓の外では、
七月の日差しが駐車場の
アスファルトを白く照らしていた。
「最近、たんぱく質が大事らしいよ」
向かいに座った人が、
お弁当のふたを閉めながら言った。

「この前は腸活って言ってなかった?」
「それも大事やねんて」
そのやり取りに、周りから笑い声が上がる。

健康の話になると、みんな少しだけ楽しそうだ。
いや、楽しそうというより、
自分には関係ない話ではないと
知っているからかもしれない。

スマートフォンを開く。
画面にも似たような言葉が並んでいた。
筋肉。
睡眠。
血糖値。
更年期。
昨日見た記事と、どこか似ている。

気にならないわけではない。
健康診断の結果は、ここ数年、
少しずつ変わってきている。
大きな異常はない。
ただ、以前はなかった言葉が
並ぶようになった。
経過観察。
生活習慣の見直し。

そんな文字を見るたびに、
何かしなければと思う。
思うのだけれど。

休憩時間は、
あと十五分しか残っていない。
午後からの仕事もある。
記事を読むのはやめて、スマートフォンを伏せた。
いつものことだった。

仕事を終えて家に帰る。
洗濯物を取り込み、夕飯の支度をする。
途中で母から電話がかかってきた。
用事があったわけではないらしい。
少し話をして、「またね」と電話を切る。
それから味噌汁を作り、食器を片づけ、
気づけば夜になっていた。

忙しいというほどではない。
暇でもない。

毎日はちゃんと過ぎていく。
困っていることだって、特にない。

それなのに、ときどき思う。
このまま来年も。
その次の年も。
同じように過ぎていくのだろうか、と。

窓の外はもう暗くなっていた。
テレビの音が遠くで聞こえる。
手元のスマートフォンが光った。
新しい通知だった。
『今から始める健康習慣』
また、その手の記事だった。
少しだけ笑ってしまう。

毎日、何かがいいと言われる。
歩いた方がいい。
筋肉をつけた方がいい。
睡眠をとった方がいい。
きっと、どれも間違いではないのだろう。
けれど、自分には何が合っているのか。
それは誰も教えてくれない。
通知を閉じる。

そして、いつものようにつぶやいた。
「あとで見よう」
その言葉を口にしたあと、ふと気づく。
健康の記事だけではない。
やってみたいことも。
気になっていることも。
自分のことも。
いつからか、みんな「あとで」になっていた。

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