わたしを取り戻す朝
わたしを取り戻す朝
第8話 ただ、歩く
土曜の朝。
目覚ましより
少し早く目が覚めた。
迷いは、
もう大きくはない。
机の上の紙は、
今日は見ない。
鍵を手に取り、
車に乗る。
街路樹の道。
二度目の景色は、
初めてより静かだ。
白線の内側に
車を止める。
深呼吸をひとつ。
木の扉を引く。
前と同じ空気。
同じ光。
「おはようございます」
穏やかな声。
会員証をかざし、
奥へ進む。
ロッカーが並ぶ。
どこでもいいのに、
少しだけ迷う。
端の一つを選ぶ。
扉についた鍵を回す。
小さな音。
それだけで、
居場所ができた気がした。
身支度を整え、
トレッドミルの前に立つ。
外から見ていた場所。
見学で立った場所。
今日は、
足を乗せる。
ベルトが
ゆっくり動き出す。
最初の一歩は
少しだけぎこちない。
二歩目で
呼吸が整う。
三歩目で
余計なことを考えなくなる。
速くなくていい。
上手でなくていい。
ただ、
歩く。
鏡に映る自分は
特別ではない。
けれど、
逃げてもいない。
五十二歳。
遅すぎることは
なかった。
体重も、
数字も、
まだ同じ。
それでも――
今日は
確かに違う。
止まっていない。
ただ、
歩いている。
外の木々が
ゆっくり揺れる。
一定のリズム。
それはもう
遠くから見る景色ではない。
わたしの速度で
わたしの朝が始まる。
ただ、歩く。
第8話 ただ、歩く
土曜の朝。
目覚ましより
少し早く目が覚めた。
迷いは、
もう大きくはない。
机の上の紙は、
今日は見ない。
鍵を手に取り、
車に乗る。
街路樹の道。
二度目の景色は、
初めてより静かだ。
白線の内側に
車を止める。
深呼吸をひとつ。
木の扉を引く。
前と同じ空気。
同じ光。
「おはようございます」
穏やかな声。
会員証をかざし、
奥へ進む。
ロッカーが並ぶ。
どこでもいいのに、
少しだけ迷う。
端の一つを選ぶ。
扉についた鍵を回す。
小さな音。
それだけで、
居場所ができた気がした。
身支度を整え、
トレッドミルの前に立つ。
外から見ていた場所。
見学で立った場所。
今日は、
足を乗せる。
ベルトが
ゆっくり動き出す。
最初の一歩は
少しだけぎこちない。
二歩目で
呼吸が整う。
三歩目で
余計なことを考えなくなる。
速くなくていい。
上手でなくていい。
ただ、
歩く。
鏡に映る自分は
特別ではない。
けれど、
逃げてもいない。
五十二歳。
遅すぎることは
なかった。
体重も、
数字も、
まだ同じ。
それでも――
今日は
確かに違う。
止まっていない。
ただ、
歩いている。
外の木々が
ゆっくり揺れる。
一定のリズム。
それはもう
遠くから見る景色ではない。
わたしの速度で
わたしの朝が始まる。
ただ、歩く。
