わたしを取り戻す朝

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第3話 数字の行方


土曜の朝。

目覚ましを
止めても、
二度寝は
できなかった。

机の端に
置いたままの
白い封筒。

指でなぞると、
紙の角が
少しだけ
折れている。

三日どころでは
なかったのだと、
気づく。

キッチンから
コーヒーの
香りがする。

湯気の向こうで、
私は封を切った。

紙を開く音が、
やけに
大きく感じる。

視線は
自然と
太字の欄へ。

基準値。
判定。
経過観察。

いくつかの
数字に、
小さな印が
ついている。

要再検査、
ではない。

けれど、
安心とも
言い切れない。

体重。
腹囲。
コレステロール。

去年より、
少しだけ
右に動いている。

「少しだけ」

その言葉が、
いちばん
あいまいだ。

大丈夫、と
言うには
ためらいがある。

まだ平気、と
言うには
根拠が薄い。

コーヒーを
一口飲む。

苦味が、
いつもより
はっきりする。

ふと、
あのリズムが
よみがえる。

一定の歩幅。
静かな呼吸。

数字は
ただの結果。

けれど、
これからの
動き方は
選べるのかもしれない。

紙を
たたみ直す。

しまい込まず、
机の中央に
置いた。

隠さない。

それだけでも、
昨日とは
少し違う。

窓の外は
よく晴れている。

車のキーを
手に取る。

今日は
遠回りではない。

ただ――
あの道を
通るつもりだ。

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