わたしを取り戻す朝
わたしを取り戻す朝
第1話 封筒の重さ
健康診断の封筒は、
どうしてあんなに目立つのだろう。
机の端に三日間、
置いたままにしている。
急ぎの書類ではないのに、
白さだけが目に残る。
五十二歳。
会社では「さすが」と言われ、
家では「無理しないで」と言われる。
どちらも間違っていない。
けれど、どちらも少し遠い。
朝は車で出勤する。
信号待ちで
ルームミラーをのぞく。
思ったより
疲れた顔が映る日がある。
シートベルトを引くときの
わずかな窮屈さ。
以前なら、気づかなかった。
帰り道、
少しだけ遠回りをした。
渋滞を避けるため、
と自分に言い訳する。
街路樹の並ぶ道。
木々の間から
ガラス張りの建物が見える。
中では
トレッドミルが静かに動いている。
歩く人。
軽く走る人。
大きな動きはないのに、
一定のリズムがある。
何度も通ったはずの景色なのに、
今日はなぜか目が止まる。
同じくらいの年齢に見える
女性が歩いている。
背筋が伸びている。
表情は
苦しそうではない。
あんなふうに
進めるだろうか。
後ろの車に促され、
アクセルを踏む。
バックミラーで
建物の灯りが木々に隠れる。
それでも胸の奥に、
さっきのリズムが残っていた。
第1話 封筒の重さ
健康診断の封筒は、
どうしてあんなに目立つのだろう。
机の端に三日間、
置いたままにしている。
急ぎの書類ではないのに、
白さだけが目に残る。
五十二歳。
会社では「さすが」と言われ、
家では「無理しないで」と言われる。
どちらも間違っていない。
けれど、どちらも少し遠い。
朝は車で出勤する。
信号待ちで
ルームミラーをのぞく。
思ったより
疲れた顔が映る日がある。
シートベルトを引くときの
わずかな窮屈さ。
以前なら、気づかなかった。
帰り道、
少しだけ遠回りをした。
渋滞を避けるため、
と自分に言い訳する。
街路樹の並ぶ道。
木々の間から
ガラス張りの建物が見える。
中では
トレッドミルが静かに動いている。
歩く人。
軽く走る人。
大きな動きはないのに、
一定のリズムがある。
何度も通ったはずの景色なのに、
今日はなぜか目が止まる。
同じくらいの年齢に見える
女性が歩いている。
背筋が伸びている。
表情は
苦しそうではない。
あんなふうに
進めるだろうか。
後ろの車に促され、
アクセルを踏む。
バックミラーで
建物の灯りが木々に隠れる。
それでも胸の奥に、
さっきのリズムが残っていた。
